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名古屋地方裁判所 昭和37年(ワ)798号 判決 1965年10月25日

原告

長谷川和博

ほか四名

五名代理人

宗本甲治

寺沢弘

佐治良三

太田耕治

被告

長谷川賢治

代理人

石原金三

被告

日本貨物急送株式会社

代表者代表取締役

木下久雄

代理人

戸田宗孝

主文

(一)  被告両名は各自

(1)  原告長谷川和博に対し金六一三万一、七一二円

(2)  原告長谷川香繊に対し金五九七万三、八七一円

(3)  原告長谷川為助に対し金一五万円

(4)  原告長谷川れいに対し金一五万円

(5)  原告石黒章友に対し金二万円

に昭和三七年一月六日からその支払ずみまで年五分の割合による金員を附加して支払え。

(二)  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

(三)  訴訟費用は被告両名の連帯負担とする。

(四)  原告長谷川和博、同長谷川香繊が各被告に対し金二〇〇万円宛、原告長谷川為助、同長谷川れいが各被告に対し金三万円宛、原告石黒章友が各被告に対し金七、〇〇〇円の各担保を供する時には当該原告は当該被告に対し本判決主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

原告ら訴訟代理人は「一、被告両名は各自原告長谷川和博に対し金九五九万三、六二五円、原告長谷川香繊に対し金九三八万六、一三四円、原告長谷川為助に対し金五〇万円、原告長谷川れいに対し金五〇万円、原告石黒章友に対し金五〇万円及びこれらに対する昭和三七年一月六日から右各完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。二、訴訟費用は被告らの連帯負担とする」との判決及び仮執行の宣言を求め、被告ら訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を求めた。<以下省略>

理由

一、被告会社が肩書地に本店を置き、貨物自動車運送業等を営む資本金一億二、〇〇〇万円の株式会社であつて、東京都の自動車発録原簿に登録された一こ一六九四号大型貨物自動車を所有し、これを自己の業務のために運行の用に供していること、被告長谷川賢治が被告会社に雇用され被告会社多治見営業所において被告会社の自動車運転業務に従事している者であること、右長谷川賢治が昭和三七年一月六日午後七時頃、被告会社の右大型貨物自動車一台に被告会社の運送貨物(ポンド六〇箱及び香料四箱)を積載し、助手席に助手安達日出夫外二名を同乗させ、これを運転して、名古屋市瑞穂区堀田通り東側車道を名鉄堀田駅前に向けて南進し、名古屋市瑞穂区堀田通り七丁目三九番地先市電牛巻電停南行安全地帯東側車道を通過した際自車進路上の前方約四七米の地点に南東方面から西北方向に向つて進行中の乗用車を認めたので、右乗用車との接触を回避しようとしてハンドルを切り約三〇米西方向に進行した為、右市電牛巻電停北行安全地帯上で市電を待つていた訴外亡長谷川博次、亡長谷川恒子、原告長谷川和博及び同長谷川香繊に自車前部及び側部を衝突させて、同人らを路上に転倒させ、よつて右長谷川博次に対し、脳出血兼頭骨々折等の重傷を、右長谷川恒子に対し脳出血兼頭骨々折等の重傷を、原告長谷川和博に対し全治二ケ月を要する脳出血兼頭骨々折等の重傷を、原告長谷川香繊に対し全治約一〇日間を要する顔面挫創の傷害を与え、右博次については同日午後七時八分頃、名古屋市瑞穂区大喜新町一丁目二番地所在の牛巻病院において、右恒子については同月八日午前六時一〇分頃右牛巻病院においていずれも右各傷害により死亡させたことについては当事者間に争いがない。

二、ところで、被告長谷川賢治は本件交通事故が同被告の過失に基くものではない旨主張するので、これについて考察するに、先ず同被告が名古屋市瑞穂区堀田通り東側車道を愛知県公安委員会の定める制限速度が毎時四五粁であるにもかかわらず、これを超えた毎時六〇粁の高速で進行したことは同被告の自認するところである。そうして前記争いのない事実によれば、同被告は前記牛巻電停南行安全地帯東側車道を通過した際、自車進路上の前方約四七米の地点に南東方向から西北方向に向つて進行中の乗用車を認めたのであるが、およそ自動車運転者たるものは法令に定められた制限時速を厳守することは勿論、絶えず前方を注視し、このような場合には直ちに急停車の措置を講じて危害の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるものというべきである。ところが前記争いのない事実によれば、同被告はその際自車右前方に市電牛巻電停北行安全地帯のあることに気付かず、ハンドル操作により右対向車との接触を回避し得るものと判断し、右高速のまま右ハンドルを切り約三〇米南進し、本件交通事故を惹起したものであるから、右事実に徴すれば、同被告は本件交通事故の発生について自動車運転手として遵守すべき前記注意義務に違反した過失の責を免れないものといわなければならない。従つて同被告は本件交通事故によつて生じた損害を賠償する義務があるというべきである。

三、また本件交通事故が被告会社が自己のために運行の用に供している本件大型貨物自動車のその運行によつて惹起されたものであることについては当事者間に争いがないのであるから、被告会社は免責事由の主張立証をしない限り自動車損害賠償保障法第三条の規定によつて本件交通事故によつて生じた損害を賠償する義務があるというべきところ、被告会社はその免責事由を主張立証することなく却つて被告長谷川賢治に運転手として過失のあつたことを自認するところであるから、被告会社もまた本件交通事故によつて生じた損害を賠償する義務があるというべきである。よつて被告両名は各自原告らに対し本件交通事故によつて生じた損害を賠償する義務を負担しているというべきである。

四、そこで次に本件交通事故によつて原告らの蒙つた損害について考察する。

(一)  亡長谷川博次の損害について

1  亡博次の得べかりし利益の損失について

(イ) 給与及び年金相当分について

<証拠>によれば、亡長谷川博次が大正一四年五月二三日に出生し、昭和二一年二月小牧税務署に税務署雇として奉職し、直税課に所属し、同署直税課第三係長及び名古屋国税局資産税課事務官を経て昭和二六年四月一日同課直税実査官となり同三二年六月一日には国税実査官となつたものであることが認められる。また<証拠>によれば、次の事実が認められ、右認定に反する<証拠>は採用し難く他にこれに反する証拠はない。即ち、亡長谷川博次は本件事故当時税務四等級七号俸として一ケ月金三万二、〇〇〇円の俸給、一、六〇〇円の扶養手当、三、一五〇円の暫定手当を得ていた健康な男子で厚生省統計調査部公表の昭和三五年簡易生命表によれば同人の余命は通常なお三五・五五年を下らず、国家公務員の慣例により満六〇才に至る迄の爾後二四年間は税務職員として勤務可能であつたところ、名古屋国務局の実査官の数は一〇〇名前後で二等級の税務署長の数は四八名である。以上の亡長谷川博次の学歴資格、税務経験年数、現官職現等級号俸、名古屋国税局の人的構成等を基礎とし、一般職の職員の給与に関する法律、人事院規則及び人事院細則などを総合すると、同人はもし本件事故が発生しなかつたならば同人の退職に至るまで別表第二〇の如き昇給を遂げ、同表の如き俸給を受け得る地位にあつたものと考えられる。そうして、同表記載の如き同人の所得税等を控除し、原告長谷川和博及び同香繊の両名が遺族年金として昭和五〇年八月まで受領することができる年額金六万一、四八四円を控除した金額についてそれぞれ月額の損害金を算出してこれをホフマン式計算によつて中間利息を控除すると同表記載の如き金九五三万六六五円(円未満切捨)となる。

次に同人が満六〇才に達し、昭和六〇年五月末日に退職するとすれば、同年六月から同人が満七〇・五五才に達する昭和七〇年一〇月まで国家公務員共済組合法及び国家公務員共済組合法の長期給付に関する施行法により別表第二一の如く年金を受領することができる。そうして同表記載の如き同人の所得税等を控除した金額についてそれぞれ月額の損害金を算出し、これにホフマン式計算によつて中間利息を控除すると同表記載の如き金一九三万三、五七二円(円未満切捨)となる。

ところで、同人の得べかりし利益の額を算出するためには、右金額の合計から同人の生活費を控除しなければならない。「総理府家計調査報告」によれば、昭和三六年中の四・三五人の家族構成による一家族当りの年間の平均生活費は金四一万一、九五〇円であるから、これを亡博次の家族構成と同数の四人家族の生活費に推算し、同人死亡の際の同人の家族構成を考慮し同人の生活費の家族全員の全生活費に対する割合の二・六分の一を(男子であつて世帯主となつている同人の生活費は妻子の各生活費よりは多額であると考えられるし、子供が小学校入学以前と小学校在学中、更には中学校、高等学校在学中はそれぞれの生活費の額が異ると考えられる。そこでこれらを勘案し、別表第八の一及び二の如く全家族の全生活費に対する同人の生活費の割合は二・六分の一であると考えて良いと思われる)乗じると夫婦の外に子供二人を養育している家族の夫の生活費の年間額は円となる。ところで亡長谷川博次は死亡の当時年間六三万四、四五四円の収入があつたところ、通常収入が多くなればそれと共に生活費も若干多く要するのであるから、この収入を生活費に反映させることとし、右一四万五、八三三円に対し、同人の収入の総計的平均収入に対する率を乗じて同人の生活費を計算すると円となる。

従つて亡博次の収入に対する生活費の割合はとなり、得べかりし利益の割合はとなる。そうして同人の収入が年次増加してもその生活費は右の率を乗じた額を超えないものと考えてよいので、前述の同人の退職迄の給与及び退職後の年金について各ホフマン式計算を行い中間利息を控除した金額の合計額金一、一四六万四、二三七円に右得べかりし利益の割合を乗じた金七四〇万四、六二四円が同人の給与及び年金についての得べかりし利益の額となる。

(ロ) 退職金相当分について

亡長谷川博次が満六〇才迄勤務し、整理退職をするとすれば同人の勤続年数は少くとも三八年になるので国家公務員退職手当法の規定により、同人が受け得る退職金の額を算出すればその額は金二五八万一七〇円となる。そこで右金額によりその所得税額金七万六、一〇〇円を控除するとその金額は金二五〇万四、〇七〇円となる。これにホフマン式計算を行い中間利息を控除すれば金一一八万七〇〇円となる。ところが同人は<証拠>によれば、本件事故による死亡に伴い金七一万四、七六〇円の退職金を支給されているからこれを控除した残額の金四六万五、九四〇円が同人の退職金に関する損害金となる。

(ハ) 以上(イ)及び(ロ)で算出した金額の合計金七八七万五六四円が亡長谷川博次の得べかりし利益の損失である。

2  亡長谷川博次の慰藉料について

不法行為により身体を傷害せられ、このために苦痛を被つた場合における慰藉料請求権は、被害者が加害者に対し慰藉料を請求する旨の意思を表示し、その請求権が金銭の支払いを目的とする債権とならない限りにおいては、被害者の死亡と共に消滅するものというべきである。これを本件について見るに亡博次は本件交通事故によつて前記の傷害を受けた後、前記病院において死亡するに至るまでの間に慰藉料を請求する旨の意思を表示していないのであるから、従つて同人の慰藉料請求権は同人の死亡と共に消滅したものというべきである。そうだとすれば本訴において亡博次の慰藉料を請求することは失当である。

3  医療費について

亡長谷川博次が入院により治療費をついやしたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、その際の同人の治療費として支出した金額が金五、三〇〇円であることが認められ、また<証拠>によれば右博次の寝巻として金七〇〇円を支出したことも認められる。

(二)  亡恒子の損害について

1  亡恒子の得べかりし利益の損失について

<証拠>によれば、亡長谷川恒子が大正一四年七月五日に出生し、亡長谷川博次と昭和二五年秋に挙式をし、昭和二六年一月一〇日に婚姻の届出をしたことが認められる。また<証拠>によれば同女が生前は普通の健康な女子であつたことが認められ、前記の昭和三五年簡易生命表によれば同女の余命は通常なお三九・五六年を下らず、本件交通事故が発生しなければ満七四才六ケ月に達する昭和七五年一月迄生存するものと認められる。ところで同女の失である亡長谷川博次は前記の如く昭和七〇年一〇月まで生存するものと認められるので、亡長谷川博次が本件交通事故の発生によつて死亡したことに伴い同女は国家公務員共済組合法の規定による昭和七〇年一一月以降昭和七四年一二月までの遺族年金請求権を喪失したこととなる。そこで同女の得べかりし利益の額を算出するために、同女の生活費を控除することとなるが、昭和三八年四月当時の東京都における独身男子の(一八才程度)標準生計費が一万二、五〇〇円であることは当裁判所に顕著な事実であるので、老令かつ女子である同女の昭和七〇年一一月以降同七四年一二月迄における生計費は多くともこの額を上回るものとは考えられないので、同女の年金収入額より生計費として毎月金一万二、五〇〇円を控除し、その残額を一二で除して別表第二二の如く月額の損害金を算出し、これにホフマン式計算をほどこすとその額は金二四万九、三八六円となる。

2  亡長谷川恒子の慰藉料について

亡恒子は本件交通事故によつて前記の傷害を受けた後、前記病院において死亡するに至るまでの間に慰藉料を請求する旨の意思を表示して居らないのであるから、前記亡博次の慰藉料について述べたと同様の理由によつて、同女の慰藉料請求権も同女の死亡と共に消滅したものというべく、本訴において亡恒子の慰藉料を請求することは失当である。

3  医療費について

亡長谷川恒子が入院により治療費をついやしたことは当事者間に争いがなく<証拠>によれば、その際の同女の治療費として支出した金額が金三万七、〇三〇円であることが認められ、また<証拠>によれば、家政婦藤田かずこに対する日給及び車代などに金二、〇六〇円を支出したことも認められる。

(三)  原告長谷川和博に生じた損害について

1  慰藉料について

(イ) 原告長谷川和博の受傷に伴う慰藉料について

先ず原告長谷川和博が本件交通事故の発生によつて脳出血兼頭骨々折等の傷害を蒙つたことは前記のように当事者間に争いがなく、右受傷に伴つて、同原告が肉体的精神的苦痛を蒙つたことも自然の理である。<証拠>によれば、同原告は右傷害治療のため、昭和三七年一月六日より同年二月一七日まで前記牛巻病院に入院し、当時小学校四年生であつたが、退院後も時折頭部の痛み及び身体の不調を訴えて殆ど通学せず、同年四月の新学期より通学するに至つたが、その後も同年八月に至るまでは時折頭部の痛みを訴えて泣いていたことが認められ他に右認定に反する証拠はない。以上の各事実に徹すればその慰藉料の額は金二〇万円を以て相当と認める。

(ロ) 原告長谷川和博がその両親を失つたことについての慰藉料

<証拠>によれば、原告長谷川和博が亡長谷川和博次及び同恒子の長男として昭和二六年九月八日出生したことが認められる。本件事故の発生によつて、若年幼少の同原告が突然その両親を喪うに至つたことはまことに不憫という外なく、亡長谷川博次、同恒子の年令職業及び経歴、同原告の年令、同原告及び亡長谷川博次、同恒子の境遇、被告両名の職業、資産、本件交通事故の態様等本件に現われた一切の事情を考慮して同原告が亡長谷川博次、同恒子の各死亡により蒙つた或いは将来蒙るべき精神的苦痛に対するところの慰藉料は同原告が本件において請求する各一〇〇万円の計二〇〇万円を以て相当と認める。

2  医療費について

<証拠>によれば、原告長谷川和博が前記受傷によつて治療のため前記牛巻医院に入院した際、その入院費及び治療費として金八万七、九三〇円を、家政婦中尾静子の看護に対する報酬として金三万一、五〇〇円を、同大川美代子の看護に対する報酬として金四、五六〇円をそれぞれ要したことが認められる。また<証拠>によれば、その際同原告の雑品代、家政婦チツプ代等として(同原告主張の別紙第一一記載のとおり)計金七、八四一円を支出した事実も認められる。

(四)  原告長谷川香繊に生じた損害について

1  慰藉料について

(イ) 原告長谷川香繊の受傷に伴う慰藉料について

原告長谷川香繊が本件交通事故の発生によつて全治迄約一〇日間を要する顔面挫創の傷害を蒙つたことは前記のように当事者間に争いがなく、右受傷に伴つて同原告が肉体的精神的苦痛を蒙つたことは当然であるが、<証拠>によれば、同原告は右受傷によつて鼻下を三針位縫いその痕跡が残存し、一見して明らかであることが認められるので、同原告が女性であることを考慮すれば、右傷害が比較的軽微とは言え、その慰藉料は金五万円を以て相当と認める。

(ロ) 原告長谷川香繊がその両親を失つたことについての慰藉料

<証拠>によれば同原告が亡長谷川博次及び同道子の長女として昭和三二年八月七日に出生したことが認められる。同原告がその両親を失つたことについての精神的苦痛に対する慰藉料については、原告長谷川和博について説示したと同様の理由によつて計二〇〇万円を以て相当と認める。

2  医療費について

<証拠>によれば、原告長谷川香繊が前記の受傷によつて牛巻病院で治療し、その治療費等が金八〇〇円であつたことが認められる。

(五)  亡長谷川博次、同恒子の葬式費用について

亡長谷川博次、同恒子の葬儀に際し、原告ら主張の別紙第一二記載のとおりその費用が支出されたことは当事者間に争いがないが、右亡長谷川博次の費用額金九万一、八五二円五〇銭亡長谷川恒子の費用額金九万八五二円五〇銭の計金一八万二、七〇五円は原告長谷川和博及び同長谷川香繊の両名に生じた損害というべきで、各原告の損害額は金九万一、三五二円(円未満切捨)であると考えられる。

(六)  原告長谷川為助に生じた損害について

<証拠>によれば、亡長谷川博次は、同原告及び原告長谷川れいの七男として出生したこと、原告長谷川為助と亡博次とは常日頃別居生活を営んでいたが、行き来しており、同原告は八一才であるが本件事故の発生によつて子に先立たれ深い悲嘆にくれて、朝晩亡博次のために念仏を唱えていることがそれぞれ認められる。右事実の他、亡博次の年令職業及び経歴、同原告及び亡長谷川博次の境遇、被告両名の職業、資産、本件交通事故の態様等本件に現われた一切の事情を考慮して、同原告が亡長谷川博次の死亡により蒙つた精神的苦痛に対するところの慰藉料は金一五万円をもつて相当と認める。

(七)  原告長谷川れいに生じた損害について

同原告は七五才であることが<証拠>によつて認められるが、その他原告長谷川為助の損害について説示したと同一の理由によつて、原告長谷川れいの亡博次を失つたことによつて蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料は金一五万円を以て相当と認める。

(八)  原告石黒章友に生じた損害について

<証拠>によれば、亡長谷川恒子は同原告の三女として出生したが、同女が一〇才位の時に、同原告は同女の母伊藤ゆとと離婚し、同原告が婿養子であつたため、同原告が離縁と共に生家に戻りその後他の女性と結婚していたもので、亡恒子はその母及び祖母の手で養育されたこと及び同原告は亡恒子の結婚式にも出席してはいなかつたが、同女の結婚後は時折り行き来することもあつた状態であることがそれぞれ認められる。右事実の他に、亡恒子の年令、境遇、同原告の境遇、被告両名の職業、資産、本件交通事故の態様等本件に現われた一切の事情を考慮すれば、同原告が亡長谷川恒子の死亡により蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料は金二万円を以て相当とする。

五、本件交通事故の発生によつて先ず夫長谷川博次が死亡し、次いで妻恒子が死亡したことは前記のように当事者間に争いがなく、前記認定事実によれば長谷川和博及び同長谷川香繊の両名は同人らの直系卑属たる子であり、また<証拠>によれば右原告両名以外には同人らの直系卑属が生存しないことが認められる。従つて亡長谷川博次の死亡によつて同人に生じた損害額(得べかりし利益の喪失の額と医療費の額との合算額)金七八七万六、五六四円は先ず妻長谷川恒子及び原告長谷川和博及び同香繊の両名がそれぞれ三分の一の金二六二万五、五二一円を相続し、続いて亡長谷川恒子の死亡によつて右原告両名は同原告の右相続分に加えて、同女の相続分二六二万五、五二一円及び同女の死亡によつて生じた損害額(得べかりし利益の喪失の額と医療費との合算額)金二八万八、四七六円の合算額二九一万三、九九七円の各二分の一ずつの金一四五万六、九九八円を相続したものであるから、亡長谷川博次、同恒子の死亡によつて、右原告両名は同原告らの相続分を併せて、合計金四〇八万二、五一九円をそれぞれ相続したものである。

ところで被告会社が亡長谷川博次及び同恒子、原告長谷川和博、同香繊の四名に対する損害賠償債務の一部弁済として弁済の充当を特定することなく金五〇万円を右原告両名の法定代理人後見人長谷川辰一に支払つたこと及び被告会社が原告長谷川和博、同香繊に生じた各医療費のうち、牛巻病院に対する原告長谷川和博の費用金八万七、九三〇円、同香繊の費用八〇〇円、原告長谷川和博の家政婦中尾静子及び同大川美代子に対する各看護の報酬金三万一、五〇〇円及び金四、五六〇円の各支払を負担したことは当事者間に争いがないのであるから、右金五〇万円については右原告両名に各金二五万円ずつ弁済されたものとして、以上の金五〇万円及び医療費の各金額を右原告両名の各固有の損害額からそれぞれ控除することとする。

六、してみると、被告両名は各自原告長谷川和博に対し同原告の相続による亡長谷川博次、同恒子の損害額の二分の一である金四〇八万二、五一九円と同原告に生じた損害金二〇四万九、一九三円の合計金六一三万一、七一二円、原告長谷川香繊に対し、同原告の相続による亡長谷川博次、同恒子の損害額の二分の一である金四〇八万二、五一九円と同原告に生じた損害金一八九万一、三五二円の合計金五九七万三、八七一円、原告長谷川為助、同長谷川れいに対し各金一五万円、原告石黒章友に対し金二万円及びこれらに対する本件事故のあつた日であることが明らかな昭和三七年一月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

七、よつて原告らの本訴請求は右限度で正当であるから、これを認容し、その余の請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条第一項を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。(山田正武、川村フク子は退官、小島裕史は転任につきいずれも署名押印できない)

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